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渋った馬場で何が起きるか — 芝とダートで逆に動く

雨が降ると「馬場が渋る」と言います。このとき、芝とダートでは起きることが正反対です。芝は水を含むほど重く遅くなり、ダートは締まってむしろ速くなる。馬場発表の仕組みから順に整理します。
30秒でわかる
  • 同じ「重」でも芝の勝ちタイムは+1.7秒遅く、ダートは逆に速くなる
  • 2015〜2025年の実測では、芝の重は50通りがすべて遅化、ダートの重は70通りすべてが速化
  • 速い時計の出やすさを見るならクッション値。8〜10が標準の目安

良・稍重・重・不良は誰が決めているのか

馬場状態は芝・ダートそれぞれ良・稍重・重・不良の4段階で発表されます。JRAは各競馬場のゴール前と4コーナーの2地点で土を採取し、含水率(土に含まれる水分の割合)を計測・公表しています。

ただし状態の発表は数値の機械判定ではありません。含水率を参考にしつつ、最終的には係員が実際にコースを踏んで確かめた上で決めています。

含水率の目安を挙げると、JRAの早見表で東京の芝は「良」が19%以下、「不良」は20%以上(区分の範囲は重なっていて、数字で機械的に切り替わるものではありません)。ダートは全場共通で「良」が9%以下、「不良」は14%以上です。芝の基準は路盤が違うため競馬場ごとに異なります。

馬場状態は含水率だけで決まらない — 最後は人が踏んで判断
  1. 土を採取各競馬場のゴール前と4コーナーの2地点
  2. 含水率を計測土に含まれる水分の割合をJRAが計測・公表
  3. 係員が踏む含水率を参考にしつつ、実際にコースを踏んで確かめる
  4. 4段階で発表芝・ダートそれぞれ良・稍重・重・不良
状態の発表は数値の機械判定ではありません
含水率(JRA早見表)芝(東京の例)ダート(全場共通)
良19%以下9%以下
不良20%以上14%以上

芝は遅くなり、ダートは速くなる

ここがこの記事の核心です。芝は水を含むと路盤が柔らかくなり、脚を取られて走破タイムが落ちます。切れ味の勝負から、パワーと持続力の勝負へ寄っていきます。

ダートは逆です。乾いた砂は力が逃げますが、湿ると砂が締まって固くなり、走破タイムはむしろ速くなります。脚抜きが良くなる、という言い方をします。軽快なスピード型に向く方向です。

つまり同じ「重」の表記でも、芝とダートではレースの質が逆方向に変わります。「道悪巧者」という言葉を見たら、芝の話かダートの話かをまず確かめる価値があります。

言い伝えではなく、数字でも確かめました。2015〜2025年のJRA平地で、会場・距離・クラスをそろえたまま良馬場の平均勝ちタイムと比べると、芝の重馬場は+1.7秒。比較できた50通りの組み合わせがすべて遅くなりました。ダートの重馬場は−1.2秒で、70通りがすべて速くなっています。傾向が割れているのではなく、きれいに逆を向いています。

同じ「渋る」でも、芝とダートは逆方向にレースの質が変わる
乾いた馬場渋った馬場
芝ダート
乾いた芝は切れ味の勝負
水を含む前の芝。ここが基準になる。
芝が渋るとパワーと持続力
路盤が柔らかくなり脚を取られ、走破タイムが落ちる。切れ味の勝負からパワーと持続力の勝負へ寄る。
乾いたダートは力が逃げる
乾いた砂は力が逃げる。
ダートが渋ると脚抜きが良い
砂が締まって固くなり、走破タイムはむしろ速くなる。軽快なスピード型に向く方向。
「道悪巧者」という言葉は、芝の話かダートの話かをまず確かめる価値がある
馬場芝の勝ちタイムダートの勝ちタイム
稍重+0.9秒(100通り中98通りで遅化)−0.3秒(76通り中12通りだけ遅化)
重+1.7秒(50通りすべて遅化)−1.2秒(70通りすべて速化)
不良+3.2秒(5通りすべて遅化)−1.4秒(46通りすべて速化)
対象は2015〜2025年のJRA平地。会場・芝ダート・距離・クラスが同じレースをひとまとまりとして扱い、良馬場が20レース以上あるまとまりだけを使いました。馬場状態ごとの差は、各まとまりの良馬場の平均勝ちタイムとの差の中央値です(その馬場状態が5レース以上あるまとまりのみ)。芝の不良は5通りしか対象が無く参考値です。

クッション値 — 芝の硬さの公表値

2020年9月からは、芝の反発力を測った「クッション値」もJRAから公表されています。2.25kgのおもりを45cmから落とし、衝突時の衝撃加速度から反発力を数値化する方式(クレッグハンマー)です。

目安は、12以上が硬め、10〜12がやや硬め、8〜10が標準、7〜8がやや軟らかめ、7以下が軟らかめ。数値が高い=硬い=時計が出やすい馬場です。

含水率と逆方向に動く傾向はありますが、1対1の対応ではありません。芝の生育状況や路盤の状態も効く、とJRA自身が注記しています。速い時計の出やすさを見るならクッション値、と覚えておくと使い分けやすいはずです。

クッション値馬場の硬さ
12以上硬め
10〜12やや硬め
8〜10標準
7〜8やや軟らかめ
7以下軟らかめ

洋芝という別世界

札幌と函館の2場は、他の8場と芝の種類そのものが違うオール洋芝です。密に生えて水分を含みやすく、時計がかかります。夏の北海道開催で走破タイムが遅いのは、馬のせいではなくコースの仕様です。時計面の比較は洋芝と野芝を分けて考える必要があります。

事前情報としての限界と使い方

馬場状態は当日まで動く情報で、レース前に確定しません。事前に使えるのは「渋った馬場を経験してどうだったか」という過去走の実績と、当日の他レースの決まり方です。

また、雨は枠の有利不利も動かします。渋った芝では内有利が消えやすい——コースの偏りの記事で書いた「偏りは固定ではない」の一因が、この馬場変化です。

含水率の基準が競馬場ごとに異なるのは芝コース。ダートは砂の性状に大きな違いがないため全場共通です。
この記事の持ち帰り
  • 馬場発表は当日まで動く。事前は過去走の道悪実績と当日の他レースの決まり方で読む
  • 芝の道悪はパワーと持続力型、ダートの道悪は軽快なスピード型へ評価軸を入れ替える
  • 含水率の基準が競馬場ごとに違うのは芝。ダートは全場共通(良9%以下・不良14%以上)
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